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大阪地方裁判所 昭和38年(ソ)1号 決定 1963年3月15日

決   定

大阪市南区心斎橋筋二丁目六番地

抗告人

クラウンジユーリー株式会社

右代表者代表取締役

山田稔

右訴訟代理人弁護士

尾埜善司

右抗告人は、大阪簡易裁判所昭和三七年(ヘ)第一、〇九六号公示催告申立事件につき、同裁判所がなした申立却下の決定に対し適法な抗告をなしたから、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

原判決を取消す。

本件公示催告の申立を許す。

理由

一、抗告の要旨

原審裁判所は、頭書の公示催告申立事件につき、本件小切手は、金額および振出年月日の記載なく、振出人が、白地補充権を他人に与える意思のなかつたことを認定したうえ、このような小切手は、振出人の記名押印があつても、振出行為のない未完成の小切手であつて、単なる小切手用紙にすぎないから、公示催告の対象となりえないという理由で、由立却下の決定をなした。しかしながら、白地小切手について公示催告が許される以上、本件小切手の場合にも、小切手法第一三条が適用せられ、白地小切手と同様に公示催告を許すべきか否かが、判断されなければならない。裁判所が、これを積極に解するならば、本件申立は、許容されるべきであるから、主文同旨の裁判を求める。

二、本件小切手紛失の経緯。

原審における山田耕造審訊の結果および疏明資料によれば、次のことが認められる。抗告会社専務取締役山田耕造は、昭和三七年一〇月二三日、抗告会社の松葺狩り費用の残金支払のいめ、京都市内の支払先において、右残金額を確かめ、同人において金額、振出日、宛名を記入して交付する予定で、別紙目録記載の小切手一通を、右支払先に持参した。ところが、同所で、支払うべき残金がないことが判つたので、右小切手の白地を補充しないまま、同人においてこれを携帯、保管していたところ、同年一二月一八日夜半大阪市内において紛失したものである。

三、本件小切手は公示催告の対象となり得るか。

手形、小切手の成立時期については、諸論義があるが、振出人等が手形、小切手たることを認識して署名(記名押印)した以上は、他に発行ないし交付という、任意に流通におく意思の徴表行為がなくても、手形、小切手は成立し、交付はかかる手形、小切手上の権利移転行為と解すべきである。このことは、完成、未完成の手形、小切手のいずれにも通じるわけであるが、ただ後者については、白地補充権の付与を、発行ないし交付にかからしめるかの問題がある。しかし、これとても、署名者が白地式のものとして署名した以上は、補充権付与の意思と補充を条件とする債務負担の意思とは、ともに、手形、小切手上に表章せられ、補充を予定した未完成の手形、小切手として成立しているものとなすべきである。そうでないと、流証券たる手形小切手は、その表顕になんらかかわりのない発行、交付の有無によつて成立を左右せられ、爾後の取得者は常にこれを探索しなければ、用紙同然の不成立証券か否かの不安にさらされることになり、かくては、手形、小切手が、書面性、文言性その他の外観を重んじる諸特性をもつ意義を喪い、著しくその流通を阻害する結果となるからである。

もし、公示催告においても、その手形、小切手につき、発行し交付の有無によつて成立を決してからでないとこれをなし得ないとなれば、たとえ、外観上完成された有効な手形、小切手であつても、右の成立要件の有無を確かめなければ、これを許容できない理であつて、公示催告を申立てることができる最終の所持人に対し、難きを強いるものとなりかねない。したがつて、少くとも公示催告の対象としては、完成、未完成を問わず、またそれが、任意に流通におかれた徴表たる発行ないし交付の有無にかかわりなく、およそ、外観上有効に成立した手形、小切手と同視され得る限りは、これを許容してよいものと考えられる。

本件小切手は、金額、振出日、受取人の記載を欠き、また発行ないし交付行為も認められないが、振出人は、右欠缺の要件記入とその発行交付をも予定して、任意の記名押印をなしたところ、右要件の記入、交付に至らないでこれを撤回し保管中遺失したものとなすものであつて、これを拾得した以後の取得者においては、外観上有効に成立した白地小切手となんら異るところなく領得し得るのであつて、これを単なる小切手用紙と同視するわけにはいかないし、また、振出人たる抗告人(申立人)は、その取得者の悪意また善意によつて、これに対抗し得ると得ないとの危険を負わねばならないのであるから、かかる小切手に対しては、公示催告を許すのが正当である。また、本件小切手は別紙目録記載の番号を付してあることによつて特定されているものであるから、不特定の故に、公示催告を拒むといういわれもない。

四、抗告人は公示催告申立権を有するか。

抗告人は、小切手署名後交付前にこれを喪失した振出人である。かかる振出人が民事訴訟法第七七八条の最後の所持人といい得るか否かを判断するに、かような振出人は、前段判示のように、補充権とともに補充を条件とする手形上の権利を表章した小切手、すなわち成立した白地小切手の最初にしてかつ最終の所持人とみなしうる。そして、このような小切手が善意の第三者に取得された場合には、これに対抗し得ない危険を負うわけであり、理論的には振出人も除権判決を得て、支払人に対し小切手金を請求することもできるわけである。したがつて、かような振出人たる抗告人も、公示催告の申立をなす利益を有し、かつその申立権を有するものと解すべきである。

五、結論。

以上のとおりであるから、別紙目録記載の小切手につき公示催告を求める抗告人の本件申立は正当であつて、これを却下した原決定は失当であるから、これを破棄すべきものである。よつて、民事訴訟法第四一四条、第三八六条を適用して、主文のとおり決定する。

昭和三八年三月一五日

大阪地方裁判所第八民事部

裁判長裁判官 玉 重 一 之

裁判官 土 橋 忠 一

裁判官 吉 川 義 春

目録(省略)

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